朝の通勤途中、道端でタンポポが1本
咲いていた。
1本だけの、気高い黄色。
その黄色の切ない程の美しさ。ピョンザブローは目をとられた。
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4-1 どきっとするほど・・・
ピョンサブローは、マーケティング部に配属された。
マーケティング部と言っても、小さな会社。
営業支援でもあり、総務でもあり、要は雑用役だ。
通勤途中、前を歩いている女性が目に留まった。ピョンサブローは後姿だけで、誰かわかった。
ピョン子だ!
その時、ピョンサブローの脳裏に、池井戸潤の「不祥事」の下記一節が蘇った。
どきっとするほど綺麗な女だが、なにか一本、スジが通っているようなそんな迫力さえ感じさせる接客態度に、油断すると気圧されそうになる。怒りを極端に増幅させることで、男は相手から受ける威圧感に対抗するしかなかった。
池井戸潤「不祥事」より
これは主人公・花咲舞の描写の1シーンだ。ピョンサブローもピョン子に対し、同じように感じていた。
そう、どきっとするほど綺麗だが、一本スジが通っている迫力を感じたのだった。
理由はない。根拠もない。単なるピョンサブローの第六感。
でも、ピョンサブローの第六感は大体的中する。
そのことを、まだピョンサブローは気付いていなかった。
4-2 売られた喧嘩
マーケティング部の横の営業部、騒然としていた。
ピョンサブローは、つい聞き耳を立てた。
「あのデザインプロモーション、なんでコンペなんかで競争しなければならないんだ!永年、ウチが仕事を随意契約=つまり競争ナシで受注してきたプロモーションだろっ!」
そう上司から怒鳴られていた部下は、おずおずと答えた。
「あのトカゲデザインとかいう新鋭会社、クライアントに強引にアプローチしてきたらしいです・・・」
「じゃあ、お前も今すぐクライアントへ行って強引にアプローチして来い!!!」
怒鳴られた部下、焦ってすぐにクライアントに飛び出しそうになった。
その時、営業部に配属されていたピョン子の一喝が響いた。
「コンペで勝つしかないでしょ! 目に物を見せてやりましょう!売られた喧嘩、逃げるわけにいかないでしょ!」
周囲はピョン子の一喝に、静まり返った。
そう、その時ピョンサブローはやはり「不祥事」の花咲舞を思い浮かべていた。
ふいに舞はにっこり笑った。相馬はぞっとする。こいつまたやりやがる--そんな予感めいたものが脳天まで突き上げたからだ。
「売られた喧嘩でしょ。買うしかないんじゃないですか?」
池井戸潤「不祥事」
「そうだ! やるぞぉ!」
営業部のあちこちから、声が上がった。
ピョンサブローは思った。「ピョン子のヤツ・・・ぞっとしたけど、やりやがる・・・」
4-3 華のある女
「やったぞぉ!」
営業部に響く歓声。
そう、ピョン子の活躍もあり、トカゲデザインとのプレゼンに勝利したのだ。
「それにしても、ピョン子のプレゼンは圧巻だったな」
「ああ、クライアントにプレゼン時にあそこまで絶賛されることも珍しいな」
大したことは、ないですよ・・・
謙遜するピョン子。
ピョンサブローは「不祥事」最後の一節、思い浮かべていた。
花咲舞か、華のある女だな、と--。
池井戸潤「不祥事」
同じように思った。
「ピョン子・・・華のある女だ・・・」・・・・・・当然、次回に続く
まとめ 「不祥事」
- どきっとするほど綺麗な女だが、なにか一本、スジが通っているようなそんな迫力さえ感じる
- 売られた喧嘩でしょ。買うしかないんじゃないですか?
- 花咲舞か、華のある女だな
・花咲舞が大暴れするこのシリーズ。池井戸作品の中でも、大人気なキャラクターですね。
・様々な事件をメッタ切りする花咲舞を中心とする短編集。あらすじは・・・もちろん記載しません。
・個人的には「狂咲」(くるいさき)というアダナがとても好きです。
・2014年からテレビドラマ化もされてます。杏さん=花咲舞というイメージの方も多いのでは?
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ピョンサブローは帰り道、朝のタンポポの横を通った。
朝には天に向かって真っすぐに咲き誇っていた可憐な花は、もう下を向いていた。
がんばれ!
なぜか、心の底から応援の気持ちが湧き出る ピョンサブローだった。
1-4-4話終了/1-5-5話に続く
*2022年2月28日初掲載